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TOP > SAMT-NETセミナー > 検査値を読む vol.1


【症例】:50歳、女性
  主 訴:発熱、貧血←遺伝性がないかどうか家族歴を聞くのが大事
 既往歴:(36歳)胃亜全摘 ← 胃全摘後、5年くらい経過すると必ずと言っていいほど巨赤芽球性貧血をきたす。
  これは、ビタミンB12の吸収には胃の壁細胞から出ている内因子が必要となるため

 家族歴:特記すべきことなし
 現病歴 14年前に貧血を指摘され、一時造血剤の投与を受けていたが、最近は服用していない。1週間前から排尿時不快感があらわれ、昨日から悪寒を伴う40℃の発熱が出現し、貧血症状も増強したため入院となった。

【入院時検査所見1】
 RBC 159×104/μl  
落とし穴! プロミレ表示ではないことに注意!
Retが高値を示していることに気が付いたかな?
(現在は、%表示を推奨しています)
 Hb 5.0 g/dl  
 Ht 16.0 %  
 Ret 4.0%
 WBC 4390 ←正常値であっても分画に異常所見がないか見ることが大事
  Meta 1%  
  Stab 15% ←10%以上だと明らかな好中球の核の左方移動。
  Metaも1%あることから細菌感染を疑わせる
  Seg 42%
  Mo 8%  
  Ly 33%  
  AL 1%  
        (EryBl 1 / WBC 100)←骨髄に何らかの異常が見られる
 Plts 6.1 ×104/μl ←血小板減少

【入院時検査所見2】
 総蛋白    7.5 g/dl ←正常値だが分画に注意!
   (Alb 55.5%低値,  α1-G 1.3%,  α2-G 6.6%,  β-G 6.3%,  γ-G 30.3%高値
   慢性の疾患が隠れている可能性がある
 t-Bil 0.7 mg/dl
 TTT 3.2 U
 ZTT 14.9 U
 t-Chol 147 mg/dl
 AST(GOT) 39 U
 ALT(GPT) 11 U
 LDH(旧法) 1220 U←高値。現在の単位に換算するなら600Uくらい
  BUN 5.6 mg/dl
 Creat 1.0 mg/dl
 尿酸 2.4 mg/dl

【入院時検査所見3】

 血沈(1時間値)
160 mm かなり高値! たんなる貧血なら60〜80mmとまりであろう。
130mm以上くらいなら(炎症と合わせて上がっているのでないなら)
大抵は多発性骨髄腫か原発性マクログロブリン血症を考える。
  CRP (6+)
 尿検査  
  蛋白 (±)
   糖 (-)
   ウロビリノゲン (±)
   ビリルビン (-)
   潜血 (-)
  沈渣:WBC many
      RBC 2〜3/HPF
ヘモジデリン (+)←見逃してはいけない
    大事なPOINT!

    

☆診断に迫る道筋(考え方)を問1・2・3で示されています。
  順を追って考えていって下さい。


問1:発熱の原因は何が最も考えられるか? 確定のための検査は?

1週間前から排尿後の不快感があり、その後、悪寒を伴う40℃の高熱が現れたこと、尿沈渣で白血球を多数認めたことから、急性膀胱炎から腎盂腎炎を併発した可能性が高い。
尿の細菌培養を行う。大腸菌を105/ml以上認めたことから急性腎盂腎炎と考える。←熱の原因にはなるが貧血を起こすことはないので、他に貧血の原因があると考えられる


問2:どのようなタイプの貧血が考えられるか? その理由は?

貧血とは?
  →Hb濃度の低下 and/or RBCの低下
   Hb 5.0 g/dl RBC 159×104/μl
MCV = Ht×10 / RBC(106/μl) ←MCVを計算して貧血のタイプを知ることが大切!
MCV80未満なら小球性貧血、日本ではほとんどの場合が鉄欠乏性貧血
MCV100以上で大球性貧血、肝硬変に伴う貧血など、特に120以上なら巨赤芽球性貧血も

  = 16×10 / 1.59
  = 100(fl)
      → 正球性貧血

正球性貧血にはどのようなものがあるか?
  →再生不良性貧血・・・この症例の場合、好中球数が減少していないことと、Retが増えていることから否定的
   急性白血病・・・白血球分画を見ると否定的
   溶血性貧血・・・Retが増えているため可能性あり
   腎性貧血・・・Cre正常、Retが増えていることで否定的
    腎性貧血とは、腎機能の悪化でエリスロポエチンが出来ず赤芽球が作られないことによる貧血
   二次性貧血・・・否定できず
    二次性貧血とは癌・膠原病・結核など、慢性的疾患によって引き起こされる貧血


問3:貧血の原因を診断するためにどのような検査が必要か?

  網赤血球(reticulocyte)
    骨髄での赤血球造血の程度を反映する。

  本症例:4.0%(基準値0.5〜2.0%)
    網赤血球数が高値なのに貧血←POINT! 骨髄で赤血球がたくさん作られているのに貧血であるということは?
  ・・・二通りのタイプの貧血が考えられる!
     →溶血性貧血
       出血性貧血←高度の貧血であればその痕跡が現れてくるはず。
               例えば、タール便や血性腹水など・・・

溶血を示す検査所見   (本症例のデータ)
1)総ビリルビン高値  0.7 mg/dl← この症例では高値を示さなかったが(肝の処理能力が高かったためか?)、データは総合的に読む力が求められる。
   (間接ビリルビン高値)
2)LDH高値 1220 U
   (LDH1の高値) 40%←アイソザイム分画もPOINT!
LDH1・2↑ 溶血、心筋などの筋の破壊
LDH2・3↑ 白血病など悪性疾患  
LDH5↑ 肝疾患など

3)AST(GOT)の高値  39 U
4)網赤血球数高値  4.0%
赤血球が壊れたことで貧血になると、それを補うように骨髄で赤芽球造血が盛んになり結果として抹消血でRetが高値となる
5)血清ハプトグロビン著減  <10 mg/dl
血管内で溶血が起こるとヘモグロビンがハプトグロビンと結合して網内系に運ばれるため消費され著減する

 

以上の結果から本症例の診断は
溶血性貧血
   hemolytic anemia ・・・ここまでは導き出せたでしょうか?

溶血の存在を確定するための検査
・51Cr標識赤血球寿命
   T 1/2 = 8日↓↓(基準範囲 33 ± 2日)
・Ferrokinetics study:
   PIT       100.7 mg/day↑
         (基準範囲 32.8 ± 8.7)
   赤血球鉄利用率  60.8%/7days↓
   (基準範囲 92.8 ± 7.7)
※溶血性貧血は大きく二つに分けられます。
1先天性溶血性疾患(40%)・・・ 赤血球膜異常症    
ヘモグロビン異常症
赤血球酵素異常症
← 本症例の場合、正常の期間があったことが確認出来ているので後天性の溶血を考える
2後天性溶血性疾患(60%)・・・ 自己免疫性溶血性疾患
発作性夜間血色素尿症(PNH)
赤血球破砕症候群
異型輸血
 

溶血性貧血の原因を探るための検査
1)クームス試験
    陽性→自己免疫性溶血性貧血(AIHA)
2)寒冷凝集試験
    陽性→寒冷凝集素による溶血性貧血
3) Donath-Landsteiner試験
    陽性→発作性寒冷血色素尿症
4)Sugar water 試験(砂糖水試験)
   蔗糖溶血試験(sucrose hemolysis test)
   Ham試験(acidified-serum lysis test)
    陽性→発作性夜間血色素尿症(PNH)


本症例での溶血検査
クームス試験 直接 (-)
間接 (-)
寒冷凝集試験 <4×
Donath-Landsteiner試験 (-)
Sugar Water試験 (+)
Ham試験 (+)
 

以上の結果から本症例の最終診断は
発作性夜間血色素尿症
   paroxysmal nocturnal hemoglobinuria(PNH)

PNHで見られる異常検査所見
1)正球性貧血    RBC 159×104/μl
              Hb 5.0 g/dl
2)網赤血球増加      4.0%
3)ビリルビン高値    《 0.7mg/dl 》
4) LDH高値        1220 U
5)ハプトグロビン低値   <10mg/dl
6)尿中ヘモグロビン陽性  《 (-) 》
7)尿中ヘモジデリン陽性  (+)←POINT!
8)Sugar water 試験陽性   (+)
9)Ham 試験陽性      (+)
10)好中球アルカリホスファターゼ
   (NAP)低値   (score)120


さぁ、皆さん、答えを導き出せたでしょうか? 検査値を読み解く力をつけたところで、ここからは発作性夜間血色素尿症について学んでいきます。



発作性夜間血色素尿症(PNH)とは・・・


・後天性溶血性貧血の中で唯一その原因が赤血球膜の異常による溶血性貧血である。

・近年の分子レベルの研究により、赤血球のみならず白血球や血小板にもGPI 膜蛋白の欠損がみつかり、造血幹細胞の突然変異による後天性のクローン性疾患であることが明らかにされた。

 PNH研究の歴史
・1882年、Strubingが赤血球自体に異常を認めた新たな溶血性貧血を発見
・1928年、Ennekingが同様の症例をPNHと命名
・1950年代にPNHという概念が普及
・van den BurghはPNH赤血球が酸性化血清による溶血を報告
・MarchiafavaとMicheliがヘモジデリン尿を発見
・Hamが酸性化血清試験(Ham試験)を開発
・1966年、RosseとDacieが蔗糖溶血試験を開発
・1967年、LewisとDacieがAA-PNH症候群を提唱
・1983年、Nicholson-WellerらがPNH赤血球でのDAF
   (decay accelerating factor)の欠損を発見
・1993年、木下らがPNH血球でのPIG-A遺伝子異常を発見

PNHの臨床像
(頻度)有病率は100万人に1から10人
(発症年齢と性別)
     30〜50歳台に多く、男女比は1:1.4
(発症時の徴候)
   貧血症状(全身倦怠感、労作時の動悸、+ 息切れ、蒼白)
   暗調尿(コカコーラ様尿):血色素尿
   腹痛、頭痛、微熱
   静脈血栓症を併発することあり
(理学所見)
   眼瞼結膜と皮膚は貧血様、
   眼球結膜と皮膚は黄疸
   軽度の肝脾腫

PNHの溶血発作に関与する因子
  1)感染症
  2)輸血
  3)外科的処置
  4)鉄剤の投与
  5)月経
  6)寒冷暴露
  7)過度の運動
  8)ワクチン接種

PNH関連の異常
◎好中球アルカリフォスファターゼ(NAP)
   glycosylphosphatidylinositol(GPI)結合蛋白に属し、PNHでは低下する。
◎赤血球アセチルコリンエステラーゼ(AchE)
   GPI 結合蛋白の一種で、赤血球表面DAFdecay accelerating factor)活性とパラレルに低下する。

PNHの臨床経過と予後
・慢性の経過をとり、診断後比較的長期間生存するが、最終的に疾患そのもの、出血や血栓症などの合併症ないし治療による合併症により死亡する。
・死因
  (Hillmenら)  骨髄無形性   46.7%
           血栓症    36.3%
           出血     18%
  (Fyjioka & Asai) 出血     38.5%
          感染症    11.5%
          血栓症     7.7%

 PNH周辺疾患
・再生不良性貧血(AA)、骨髄異形成症候群(MDS)ないし骨髄増殖症候群
  (MPD)に近い疾患群で、疾患の移行のあることが知られている。
・AAやMDS、MPD、CLLからPNHへの移行があることが知られている。
・PNHからAAやMDSへの移行、あるいは急性白血病、CML、CLLへの移行が報告されている。 

PNHの定義と新しい概念
・補体に感受性の高い赤血球(補体感受性赤血球)の存在により、生体内で補体が活性化された時に血管内溶血が起こり、貧血とヘモグロビン尿(ないしヘモジデリン尿)を来す慢性の後天性溶血性貧血である。
・1983年、Nicholson-WellerらがPNH赤血球でDAFの欠損を発見して以来、PNH各種血球において18種類のGPI結合蛋白の欠損が証明された。
・GPI結合蛋白の欠損はPNHの前駆細胞にも認められ、PIG-A(Phosphatidylinositol glycan-class A)遺伝子のsomatic mutationの結果、transferaseとしての酵素活性が低下し、GPI結合蛋白の欠損が起こる事が明らかになった。

PNHの治療
・PNH血球の補体感受性に対する治療と、PNHの骨髄不全に対する両面に対する治療が必要である。
・根治療法は造血幹細胞移植のみ(予後のよいPNHにはあまり行われない)
・副腎皮質ホルモン剤
   補体溶血を抑える他、PNHクローンを抑制する可能性もある
・鉄剤投与
   鉄欠乏性貧血を合併した場合に時に用いられるが、経口で少量から投与する
・洗浄赤血球輸血

  〜おしまい〜


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