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TOP > SAMT-NETセミナー > ヤンデル先生の対比教室 第15回

第15回:ネットにはなんでも残っちゃうんですよ?と言いながら本名を検索して涙を流す毎日

 はいどうもこんにちは。病理医ヤンデルでございます。どうでもいい話ですが、わたくしの本名で検索して出てくる「ブログ」、あれ、わたくしと同姓同名の赤の他人がやってる「無関係」なブログです。なんだあの黒歴史みてぇなキモ……いえなんでもございません。
本日は少々、医療統計学の話をさせていただきます。「画像・病理対比」とは話がずれてしまいますけれど。
いろいろな学会・研究会に出席していて感じることなのですが、医療統計学の根本を勘違いしたまま、自分の頭の中で組み立てた「おかしな結論」を平気でしゃべってしまう人が、後を絶ちません。
多変量解析がどうとかカプラン・マイヤーがどうとか、そういう「難しい統計」の話がしたいわけではないのです。それ以前の「医療統計に対する心構え」について、この場を借りて少しお話させてください。
 医療統計学に明るい人は、なんらかの母集団を観察して出てきたデータに対し、「合理的解釈ができるかどうか」……すなわち、「データの意味」をきちんと考えます。統計処理データに「意味」や「理由」がうまく当てはまらない場合、その統計には何らかのバイアス(偏り)やエラーが入っていることがほとんどです。
 具体例を一つ。
かつて、「赤ワインが体にいいはずだ!」という理屈ありきで作られた、大規模な疫学データがあったのですが、そのデータには致命的な欠陥がありました。
フレンチ・パラドックスという言葉があります。フランスでは動物性脂肪の摂取量が非常に多いのに、心血管系イベントによる死亡率が低い、これは赤ワインをいっぱい飲んでいるからではないか……という、有名な「おめでたい推論」です。
この「推論」が、「本当」になってしまった時代がありました。というか、今でもこの「推論」を信じている人はいっぱいいます。はっきり言いますが、これ、眉唾です。
フレンチ・パラドックスの理由を明らかにしようと、何人かの研究者が「赤ワインを適量飲むと体にいい」というデータを提出しました。お国もお酒会社もみんな大喜び。我らが日本人も、嬉々として赤ワインを買いまくり、飲みまくりました。ポリフェノールが体にいい、レスベラトロールが寿命を延ばす。こんな話、聞いたことありませんか?
この「推論」が有名になった背景には、大規模な医療統計プロジェクトがありました。「赤ワインを飲む人」と「赤ワインをあまり飲まない人」の 2 群を比較する、という観察研究です。 2 群間で、脳梗塞や心筋梗塞などの心血管系イベントに差があるかどうかを見れば、赤ワインが健康に関与するかどうかを類推することができます。もちろん、年齢・性別など多くの因子について、きちんと標準化がなされていました。片方だけ年齢が妙に高いとか、片方だけ男性の量が妙に多いとか、片方だけ喫煙者ばかりだ、といった「バイアス」をできるだけ減らすのが、医療統計学の基本です。件の赤ワイン研究でも、注意深い母集団選別がなされたはずだったのです。ところが……。
「赤ワインを行儀良くたしなむ人」はそもそも生活レベルが高いということを、研究者達が失念していました。「対象者の年収やライフスタイル」が標準化されていなかったのです。
データの母集団には「ゆがみ」が生じていたのに、研究者自身が「赤ワインはカラダにいいはずだ」という思い込みを持っていたため、バイアスに気づくことができず、結果をそのまま受け入れてしまいました。赤ワインを常飲する人の群では、日頃から体重をきちんと管理したり、食べ物のバランスを整えたり、余暇に運動をしたり、病院に定期的にかかる人の数が、対照群よりも多かったのに。
赤ワインが健康によさそうだ、という結果に「合理的解釈をしよう」と考えた医療者たちは、ポリフェノールのような「ある程度人間の健康に影響がありそうな物質」を探し出し、「これによって健康になるのだ!」と結論したのです。これも、言ってしまえば「乱暴」です。ポリフェノールをヒトに投与しても、延命効果があるかどうかはまだわかっていません。おまけに、ワインに含まれている程度の量となれば、なおさらです。
統計データを読む際には、「なぜこのような統計データになるのか?」を慎重に考える知性が必要です。結論ありきで統計データを眺めると、いくらでも「発表者が欲しいデータ」として解釈することはできます。しかし、そのデータ、本当に患者さんの役に立つデータなのでしょうか?
 
 ちなみにわたくし、最近赤ワインが大好きです。 2 本 2000 円くらいのワインを買ってきて 1 ヶ月以上かけてちびちび飲んでおります。確かに最近健康です。でも、これ、ポリフェノールのせいじゃなくて、「楽しくお酒を飲める環境」の方が効いてるんじゃないかなーなんて思うんですけれどもねえ。

 ( ・ω・) 赤ワイン最高: