札臨技
事業予定
統一化
SAMT-NETセミナー
登録
共催事業
LINK
会員専用ページ
TOP > SAMT-NETセミナー > ヤンデル先生の対比教室 第17回

第17回:病理医マンガ「フラジャイル」が大人気ですがモデルは悲しいことにぼくではないです

 病理医ヤンデルでございます。去る 10 月 25 日、北部九州エコーライン(代表・馬場三男先生)に招かれましてひとしきりエコー・病理対比のお話を致しましたが、その中で触れた話題、 desmoplastic reaction (悪性腫瘍浸潤部における線維化)について書いてみようと思います。実はこのお話、本連載の第 1 回でも少し触れています。
 多くの悪性腫瘍は、浸潤部に線維化を伴います。例えば乳癌には「硬癌」という組織型がありますね。硬癌は大きくなると線維化によって硬くなり、周囲を引き込んで引きつれを形成します。線維化によってガチガチに硬くなる様子、さらには隙間に細く足を出すように浸潤する様子から、古代において乳癌は「 cancer (キャンサー・カニを意味するギリシャ語に由来)」と名付けられました。足を伸ばし硬くやや赤い、カニの悪魔として恐れられたのです。
 大腸癌、胃癌、膵癌、胆嚢癌 …… 。多くの癌では浸潤部に線維化を来し、硬く引きつれます。この硬さや引きつれ、周囲破壊をもって癌の画像診断が行われます。
 癌の浸潤部に生じる線維化は、潰瘍やびらんなどの結果起こる線維化とは区別されており、デスモプラスティック・リアクション desmoplastic reaction (DR) という名前で呼ばれます。 DR は、かつては腫瘍に対する生体内の防御反応と考えられており、腫瘍の浸潤に対して体内がバリケードを築くように線維を作るのだと信じられていました。しかし近年では、 DR は「癌自体が誘導し、自分で作り上げる足場である」と考えられています。 DR は腫瘍固有の性質であり、受け身で形成される線維化ではなく、能動的に形成される線維化だということです。
 腫瘍の浸潤と DR (足場となる線維の形成)の話を、最近わたしは「ヤクザ」に例えてお話ししています。
 癌(上皮性の悪性腫瘍)は、上皮の存在する場所から発生します。上皮は「体外と交流がある場所」に存在し、胃や大腸では管腔の最も内腔面である「粘膜」に存在します。
 癌の発生当初、粘膜内に存在する癌細胞は、「ホーム」にいる状態です。癌も正常上皮細胞も似たような血管を用い、似たような血流を受けて生きています。平和な町に「発生」したヤクザが、偉そうなことを言いながらも結局コンビニとか交通路を使って生活しているのと一緒です。癌が粘膜内に存在するうちは、正常細胞と同じように、元からあるインフラをうまく使って増殖します。
 その後、癌が浸潤すると、本来は上皮が存在しない粘膜下層や固有筋層、漿膜下組織に入り込んでいきます。ここはヤクザにとっては「アウェイ」。元々住んでいたホームと異なり、電車の配置も上下水道の配備状態も違います。このままでは生きていけないので、周囲に DR を起こし、線維化と共に血管を誘導し、「自前のインフラ」を形成するのです。自前のインフラは元からあるインフラより脆弱で不規則なため、しばしば癌は栄養不足で壊死を伴います。遠隔転移病巣(遠いアウェイ、例えるならば海外)では壊死が目立つことが多いです。
アウェイ進出ヤクザはマフィアみたいなもので、周囲と激しく戦闘を起こします。吹き飛ぶ家(既存構造の破壊)、倒れる無垢の人々(正常細胞の破壊)、積み上がるバリケード(反応性の線維化)。そして、 DR による自前インフラ配備(能動的な線維化と腫瘍血管の新生)。これらが「不規則な肉眼像、独特のエコー像」を形成していきます。
DR がなぜ大事か。「 DR による層構造の破壊や線維化による低エコー化・不整エコー化をみること」こそが、エコーにおける深達度評価だからです。 DR がなく、腫瘍細胞だけが増殖する病変(髄様の癌など)は深達度診断が難しくなります。
 関連して、「胆嚢癌の浸潤評価は他の消化管癌と少し違う」という話題にも少し触れましょう。胆嚢癌における DR の形成は、胃や腸などとやや異なります。胆嚢癌は固有筋層内ではあまり DR を形成せず、漿膜下組織に浸潤してはじめて DR を形成することが多いため、胃や腸の癌と比べると浸潤の評価が難しい(きっちり漿膜下組織まで達していないと壁に変化が出にくい)のです。
なぜ固有筋層で DR が起こらないのでしょう?胆嚢癌にとって、固有筋層内は「アウェイ」ではないのでしょうか?胆嚢には RAS(Rokitansky-Aschoff sinus) があり、非腫瘍の腺管が固有筋層内に頻繁に入り込みます。これは想像なのですが、胆嚢の上皮にとっては「固有筋層内もホーム」なのでしょう。しょっちゅう出入りする組事務所の支部みたいなものなのかもしれません。胆嚢では「元々粘膜が固有筋層に落ち込んでもうまく栄養されるようにできている」ため、癌が固有筋層内に浸潤しても DR が形成されにくいと推測されます。胆嚢癌は固有筋層を超えて漿膜下組織にのみ選択的に DR を来す傾向があるため、漿膜下組織に帯状の低エコー(線維化による)が生じることをもって浸潤の評価をすることがあります。この現象は他の消化管癌ではあまり経験されません。
以上の内容を福岡市で講演したところ、懇親会の席で「面白かったけど北九州でヤクザの話題出すと命が危ないから気をつけてね(ニコ)」と言われて震えました。
  ((( ・ω・ ))) 暴対法 :